ビル一棟まるごと”トランクルームに生まれ変わるオフィスビル キュラーズの新店開発手法と今後の展望
聞き手:(株)With R Sunshine 雲田峰康
大都市圏を中心に出店が続くトランクルーム。「2012年度の国内収納サービス(レンタル収納・コンテナ収納・トランクルーム)の市場規模は前年度比7.4%増489.2億円、2013年度は前年度比6.6%増521.5億円」が予測されるという(※矢野経済研究所調べ)。店舗数の増加により消費者の認知度向上が進み、さらなる需要増加につながるという好循環が続いているようだが、トランクルームの店舗はどのように開発されているのか。今回は屋内型トランクルーム市場国内最大手のキュラーズで店舗開発を手がける開発部のディレクター 塩野善勝氏と、マネジャー 森下朋子氏にお話をうかがった。
開発部ディレクター 塩野善勝氏と、マネジャー 森下朋子氏
なぜ“ビル一棟まるごと”なのか
日本にトランクルームが出現したのは1990年代。その頃は倉庫や古いオフィスビルに簡易な収納スペースを設けたり、遊休地にコンテナを置いて貸し出すといったものが多く、収納スペースの安全性や清潔さ、アクセスの良さなどは必ずしも十分ではなかった。これに対しキュラーズはアメリカでよく見られるタイプのトランクルームを日本市場向けにカスタマイズし、2002年に1号店を東京港区にオープン。セキュリティの充実、温度や湿度の管理、店舗スタッフの常駐、無料駐車場の完備など、従来のトランクルームにはなかった高品質のサービスで競合が提供するサービスと差別化。消費者の評価を得てこれまでに日本の主要10都市に45店舗以上を出店してきたが、「キュラーズの最大の特徴は、ビル一棟をまるごとトランクルームに仕立て上げるという手法」だという。
“ビル一棟まるごと”とは文字通りビル全体をトランクルーム化する手法で、キュラーズではこれをコンバージョン(転換)と呼んでいるが、「ビルの1フロアをリースする方法と比べると、ビルそのものを購入してトランクルーム化することで、お客様がトランクルームを使う上で最適なプランを組み立てられる。収納スペースはもちろん、駐車場や導線、設備などまでを含めて、店舗設計の自由度が格段に高い」のだそうだ。また「コンバージョンするビルについては耐震基準や設備の関係で、開発コストも考慮すると、その対象はオフィスビルであることが多い」という。開発やサービス展開の自由度、コストパフォーマンスを考慮しての“ビル一棟まるごと”なのだ。
そして、「対象物件が決定されると、建築基準法や消防法などの関連法令を参照しながら、その物件を詳細に調査。また、周辺の市場調査に基づいて、半畳程度~6.5畳程度まで用意されたさまざまなサイズの収納スペースの組み合せを検討。収益性が十分に確保されると判断されれば開発に着手する」ことになる。
新店開発の短縮化で収益性も向上
その後、具体的な設計を経て工期・工費見積と進んでいくが、オフィスビルをトランクルームとして使用するための用途変更申請などもある。行政とのやりとりだけに気を遣う部分で、当初はトランクルームそのものの認知度が低く、行政側の対応も手探りであったため手続きに時間がかかったというが、最近ではキュラーズ側に十分なノウハウが蓄積され、また、行政側にも前例の積み重ねができ、スムースに進むようになったそうだ。
工期短縮のために、もちろん、業者の協力も得て施工面での工夫もしており、「例えば収納ユニットは、以前は海外生産だったが、国産化することでリードタイムを短縮するなど、さまざまな取り組みを行っている」という。
許認可関係でいうと、看板類の掲出にも手続きが求められる。「キュラーズは、ビル一棟をトランクルーム化することで建物全体をサイン化することができる点もメリットと捉えているが、看板類の掲出には各自治体の景観条例などが絡んでくる。それらの手続きも用途変更申請などと同様、ノウハウの蓄積で手続き期間の短縮を進めてきたが、トランクルームというサービスが次第に普及し、認知度が高まったことで行政側の担当者の理解が進んだ、という点も非常に大きい」という。
このように、さまざまな経験の蓄積と工夫により開発期間を従来よりも約30%短縮。より早くトランクルームとしてオープンさせ賃料収入を得られるようにすることで、収益の向上が図れたという。
市場環境の変化に合わせ、既存店をアップデート
こうして新店開発をスピードアップしてきたわけだが、「新店開発の作業・コストの効率化を今後もさらに進めていく一方、既存店のメンテナンスにも力を入れていく」ことになるようだ。
1号店のオープンから10年以上。既存店のアップデートにも気を遣わなければならない時期に入ってきたのだ。「既存店については収納ユニットやエアコン、エレベーターなど設備のメンテナンスはもちろん、お客様に触れる部分、つまり収納スペースやロビーなどの内装やサイン、看板をはじめとする外装もアップデート。デザインや材質なども新店との統一を図り、既存店も新店も同じ品質感を保つようにしている。また、オープンしてから時間が経っている店舗では、周辺の環境変化によりトランクルームに対するニーズが変化している―。例えばマンションの建設が増えたことでファミリー層による大きなサイズの需要が増えるなど、ニーズに合わせて収納サイズの組み合わせを再構成する検討も必要」になってくるのだ。
今後は中古マンションのコンバージョンも視野に
さらに、「これまでは主にオフィスビルからのコンバージョンを主体にしてきましたが、中古マンションも対象とできないかどうかを検討していきたい」という。中古不動産に大規模な改修を施し、トランクルームとして生まれ変わらせる、欧米では不動産がストックと捉えられるのに対し、自然環境や歴史的・文化的背景により工法が異なっていたこともあって、不動産をある種のフローとして捉える風潮がまだ残っているように思われる日本。既存不動産のリノベーション・コンバージョンに対する税制面での優遇が充実している欧米に比較すると、日本ではまだこれからとの感があるが、その中にあって、トランクルーム市場のリーダー的存在として新店の出店と既存店のアップデートにより高品質なトランクルームを提供するキュラーズのビジネスのあり方は、これまでフローを重視してきた日本社会に対してストックを見つめ直し、価値を見出し、メンテナンスを施し、その価値をさらに高めていくことの意味を投げかけているともいえるだろう。