トランクルームマーケット情報

日本のセルフストレージ事業者が直面する課題と解決策

筆者:佐治龍哉


日本では、特に東京や大阪のような主要都市において、セルフストレージビジネスはゆっくりと着実に成長しています。矢野経済研究所による最近の調査では、東京のセルフストレージ市場規模は2010年に260億円を超え、さらに拡大を続けています。その理由のひとつは、サービスに対する大きな需要があるからです。

日本の人口はおよそ1億2800万人です。カリフォルニア州よりも小さな島にこれだけの人が住んでいます。標準的な家は2LDKや3LDKで、広さは80-100平方メートル、価格は2000万円から3500万円またはそれ以上ですが、これらは主要都市、駅、学校、お店等からどれだけ離れているかによって変わってきます。人口密度が高いエリアになるほど、より小さな家に住むことが一般的です。日本の居住スペースの密度は、ニューヨークシティの13倍にもなります。言うまでもなく、人々はスペースに困っているのです。

認識不足、法的懸念

日本のセルフストレージ事業者は、アメリカの事業者がかつて経験したのと同じ課題に直面しています。最大の障害のひとつは、サービスに対する人々の認識です。

日本人はまだ、セルフストレージを便利なライフスタイルの選択肢として認識していません。日本ではセルフストレージのことを”トランクルーム”、”スーツケースルーム”、”収納ボックス”と呼ぶのですが、それはユニットのサイズがオーストラリア、カナダ、アメリカと比較してはるかに小さいからです。日本の人々は、それが何かは知っているけれど、それを効果的に使いこなす方法を知らないのです。

またセルフストレージの料金は、一般消費者の目には少し高すぎると映るかもしれません。消費者により良く知ってもらうためには、総合的なマーケティング戦略を改善する必要があるようです。

ほかにも日本の事業者が頭を悩ませている障害がありますが、それは賃貸契約と利用者の滞納の2つです。多くの事業者は1991年の”借地借家法”に基づく賃貸契約を使用していますが、これは借り手の保護を図るために制定された法律です。未払いのユニットや滞納に対し競売を見合わせることは、珍しくはありません。事業者はその代わりに、ユニット内の物を移動したり、長期にわたって保持したりして、法的な面倒に巻き込まれないようにするのです。さらには、事業者間で賃貸契約の文言に大きなばらつきがあります。レンタル収納スペース推進協議会では、事業者を保護するため、これらの契約の標準化に向かって取り組んでいます。

単にユニットを借りるということも、日本ではアメリカ以上のばらつきがあります。多くの事業者には、即日に複数ユニットを貸し出すことを敬遠する傾向があります。個人の持ち物を積んだトラックをストレージ施設に横付けして、その場でユニットを借りるということは日本ではほとんど不可能です。ユニットを確保するプロセスはもっとシンプルである必要があります。

日本のセルフストレージ会社の多くは、現地にマネージャーを置かずに施設を運営しています。例外は大手の1社であるキュラーズです。同社の運営スタイルは多くの点でアメリカの施設運営に似ており、日本で高く評価されています。

新規出店の資金調達

日本のセルフストレージ業界はまだ初期段階にあり、一般消費者や金融機関にとって比較的新しい産業です。資金調達やマーケティングに関して言えば、事業者にとっての最大の障害のひとつは、認知が十分でない点です。新たな投資家がセルフストレージビジネスに参入するのは難しいです。日本の金融機関のほとんどは、このビジネスを不動産の主要業種として認識していないか、十分な知識を持っていません。

東京の大手銀行ならばセルフストレージプロジェクトへの融資を検討するかもしれませんが、マンションやオフィスビル、従来型の賃貸物件といった不動産プロジェクトよりも、0.3%から0.5%高い金利が設定されるでしょう。セルフストレージの開発は一般的にかなりハードルが高く、金融機関や投資家は新たなプロジェクトに対し、高い信用格付けと担保を要求します。

加えて、海上コンテナをストレージユニットとして使い、建設されたセルフストレージ施設が多くあります。これらは少ない投資で済むため、利益率が高いことが多いです。安く借りられる一方、従来型のセルフストレージが持つセキュリティ機能を備えていません。しかしながら、コスト意識の強い消費者の多くは、これらの2種類の製品を区別することができません。多くの事業者は、土地利用規制条例がより厳しくなり、海上コンテナを使った施設が建設、運営される場所を規制できるようになることを期待しています。

フレキシブルな製品の提案

日本人はアメリカ人のライフスタイルに憧れを持っています。多くの日本人にとって、スペースに余裕があり、趣味に使える部屋や望みのものが何でもある大きな家に住めるようになるのは、映画の中の話でしかありません。日本人はわざわざお金を払って、自宅近くの屋外駐車場を利用します。というのは、自宅にガレージがないからです。信じ難いかもしれませんが、平均的な日本人にとって、自分の車専用のガレージを持つことは夢なのです。

日本市場でスペース不足を克服しているひとつの方法は、新しいフレキシブルな製品の提案によるものです。ストレージのトップ企業の1社であるライゼは、東京と大阪でおよそ360店舗の従来型セルフストレージを展開していますが、新しいレンタルスペースのアイディアでシェアを拡大しています。同社の技術者と設計者は、ストレージとガレージと趣味の部屋を兼ねた新しいフレキシブルなスペースとして、”ライゼ・ホビー”というコンセプトを考え出しました。メインフロアにしっかりとした屋内ガレージと車やバイク用のスペースがあり、さらにロフトや2階スペースを備えています。

ライゼは現在、これらの新しいコンセプトの施設を5ヵ所で展開しています。いずれもオープンから数ヶ月で100%近い稼働率に到達しました。平均月額賃料は78,000円から93,000円です。利用希望者のウェイティングリストもあります。部屋は住宅として設計されていないため、利用者がそこに住むことは禁じられていますが、自宅とは別にもうひとつのプライベートなスペースを持つライフスタイルを楽しんでいるようです。ライゼはさらに施設を増やす予定であり、また賃料の値上げもすでに検討しているところです。

日本のセルフストレージ市場が拡大を続けている一方で、事業者や投資家は、開発に適した土地探し、資金調達の難しさ、法的な議論、そして最も重要な一般の認識といったさまざまな課題に直面しています。しかしながら、セルフストレージに対する需要が大きくなれば、このような障害を克服する力となり、業界は繁栄に向かって成長を続けることでしょう。

佐治龍哉氏はTrade Winds International IncのCEO。アメリカ在住30年以上。日本のセルフストレージ産業のコンサルタントを務め、日本最大かつ唯一の政府公認組織であるレンタル収納スペース推進協議会の業務に携わる。
連絡先:rsaji@trwinds.com

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