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この記事は、不動産経済ファンドレビュー2017年8月号にて掲載された記事を引用したものです。
個人向けに収納スペースを貸し出す、セルフストレージ市場が着実に成長している。コンテナを設置する屋外型に加え、建物内で展開する屋内型への需要もここ数年で増加。伸びる需要を背景に、セルフストレージ事業者は賃借形態だけでなく、土地を取得して新築する開発を積極化し始めた。投資家に向けた販売や将来的なファンド化、リート化を見据えた動きも出てきた。セルフストレージを巡る開発・投資動向を探る。
セルフストレージ(以下ストレージ)の市場規模は、年々拡大を続けている。大手事業者であるキュラーズの調査によると、屋内型・屋外型を併せた市場規模は直近の2016年で約507億円。247億円だった2008年から8年間で倍増した。首都圏や地方中核都市への人口流入により都市化が加速し、住宅価格が上昇した結果、マンションをはじめ都心部の住宅が狭小化。高齢化の進展と相まって、自宅に収めきれなくなった季節用品や趣味用品、処分しにくい物の収納場所としてストレージのニーズが着実に高まっている。 昨今の働き方改革により「在宅勤務やフリーランス、企業家が増えれば新しいニーズが生まれる可能性もある」(鈴木英晃C&W日本リサーチ・ディレクター)。メディアに取り上げられる機会も増え、認知度が向上。女性でも利用しやすい「安心、安全、きれい」な屋内型はとくに引き合いが強まっている。
こうした追い風を受けて、主要事業者が展開する物件の大半は、オープン後2~3年で稼働率が8~9割に到達。需要に対して供給数が不足気味であり、総じて安定稼働が続いていることから、各事業者は新規開設に積極的だ。 ストレージの開発形態は、主に3つある。1つは築古の空ビルを1 棟まるごと取得しコンバージョンする形態。2つ目は、地主にコンテナを設置してもらい事業者がマスターリースする形態。3つ目はビルの一画を事業者が借りて運営するビルイン形態。これまではコンテナ型やビルイン型のように土地や建物を借りて展開するパターンが主流だったが、ここにきて事業者自らが土地建物を取得して建物をコンバージョンする、もしくは新築するケースが増えてきた。取得すれば、より質の高いストレージに仕上げやすくなるためだ。 また、投資商品として投資家に販売できるようになり、将来的なファンドやリートの立ち上げも可能になる。今後数年間は、各事業者とも物件取得による出店がメインテーマになりそうだ。 ストレージに適した立地か否かは、3~5キロ圏内の住宅地にどれだけ世帯数があるかで判断できる。 利用者は自宅から車などで荷物を運び入れることから道路付けが重要な一方、駅距離はさほど問題にはならない。敷地面積が50坪程度あれば、北向きで採光が悪くても関係ない。こうした特有の取得目線は、一般的な不動産業者と一線を画しているため競争は緩やか。たまに同業他社やマンションデベロッパー、戸建て業者とかち合う程度だ。売主は個人や地元の中小企業が大半。各事業者はこうした状況から開発用地を仕入れている。 キュラーズは2001年の創業当初から、1棟まるごと取得してコンバージョンする戦略を貫いている。室数ベースで年率10%の増加を目標に置き、2016年は60億円を投資して7物件を取得。2017年も上半期に4物件の取得を決めた。店舗数は今年下半期オープンを含め、全国57店舗・3万4000室。東京23区を中心とした首都圏を軸に、2020年までに100店舗体制を目指している。 同社親会社である外資系不動産投資ファンドのエバーグリーン・リアルエステート・パートナーズ・エルエルシーは長期投資を志向。そのため、同社も「長期保有目線で今後20年、30年経っても不動産価値が維持される、または向上すると見込める物件だけを選別的に投資している」(フランク・ハリソン投資運用部ディレクター)。その分、取得競争にさらされる可能性が高くなるが妥協はしない。物件単独のリスク・リターンだけで捉えず、たとえば広告効果など保有物件全体のポートフォリオへの貢献度も考慮して取得に臨む姿勢も1つの特徴だ。 キュラーズと並ぶ業界最大手のエリアリンクは2015年末から、土地を取得してツーバイフォー、鉄骨3階建て、システムコンテナなどを設置・新築する土地付きストレージの開発を始めた。全国に1000カ所以上展開する屋外型(コンテナ型)の近接地に出店する考え方で、これまでに9棟・520室を開発。相続対策を考えている地主や高給取りの会社員などに販売し、「アパートに代わる投資商品として興味を持ってもらえている」(栗野和城取締役営業本部長)。国内外の機関投資家も先行する米国の状況を鑑みて、関心を寄せているという。 投資家向けの販売と並行し、ファンドやリートの組成をにらみスキームの調査や準備も進めている。来年には何らかの方向性を打ち出す予定だ。同社は土地付きストレージの開発を2017年に40カ所、2018年に60カ所、2019年に100カ所手掛ける方針を掲げており、開発スピードを上げていく。
セルフストレージ事業者に対し入金管理から滞納保証、運営受託、予約、決済管理、施設開発まで幅広くソリューションを提供するパルマは、東証マザーズに上場した2015年から屋内型を開発し、投資家向けに販売する事業を始めている。「土地価格が比較的落ち着いている東京西部を中心に、駅から徒歩15分以上の住宅地および近接地に注目」(高野茂久社長)し、これまでに7棟・675室を投資家に開発・販売している。販売先はストレージ事業者、高給取りの外資系会社員、海外投資家など。同社は物流倉庫大手のシーアールイーやエリアリンクなど6社との共同出資により、日本パーソナルストレージ社を設立。同社が開発した施設ブランド「Keep It」のPMを行いながら、将来的には合従連衡による建物型(屋内型)に特化したリート上場を視野に入れる。 いちごは今年6月末にセントロをM&Aし、ストレージ市場に参入した。東京都心部を中心に不動産事業を展開するセントロは2013年に、三井物産からストレージ専業子会社であるストレージプラスの株式を譲り受けて以降、ストレージを運営・開発してきた。現在、今年度中の開業予定を含め東京都内、神奈川、札幌で22店舗・約3000室を展開中。いちごは今後、富裕層ビジネスを展開するいちごオーナーズの顧客向けオルタナティブ投資不動産として、2億円・120室程度のストレージを開発・販売していきたい考え。さらに3億~ 4 億円程度の比較的大きめの物件は100 億円程度まで積み上げリート組成も視野に入れる。いちごの渡邊豪常務は「市場にはまだ圧倒的なプレーヤーがいない。この2~3年が勝負」と見て、今後5年間で今の5倍となる1万5000室規模まで一気に拡大する構えだ。 ストレージ投資の魅力は、長期安定性にある。新規開設後、安定させるには100室規模で約2年かかるが、一旦埋まれば解約は全体の数%に止まる。稼働率にもよるが、NOI利回りは償却後で6%程度を確保できるという。近隣に新築の競合物件ができても、よほどの理由がない限り乗り換えが起きにくい。水回り設備は不要であり、設備更新のためのC APEXもほぼ掛からず、新築と中古物件の間で需要に差が生じない。他のアセットには見られないこうした特徴を踏まえると、需要のある場所にいかに先んじて出店できるかが勝負を分ける最大のポイントになりそうだ。
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