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昨今、新築のアパート・マンション経営を勧める広告をよく目にします。定年前後の層に向け、相続税対策や退職金の有効活用、老後の不安解消を訴えるものが多いようです。曰く「〇〇年一括借り上げ」。曰く「家賃保証」。曰く「自己資金ゼロ」。こんな惹句を見れば、先立つものが無くても食指が動きそうになります。たしかに字義通りならこんなにすばらしい投資商品はありません。損をするようには思えませんし、むしろ無理をしてでも建てたほうがいいような気さえします。しかし本当にこんなうまい話があるものでしょうか。
例えば○○年一括借り上げとある場合。たしかに業者が借り上げてくれる間は空室に悩むことはありません。一見安定収入を長期間続けられるように感じますが、それは契約時の条件が続けられればの話です。一括借り上げは一定の収入を保証するという意味ではありません。市況が悪化して当初の条件を満たす事ができなくなれば途中で解約される可能性もありますし、そもそも業者が倒産しない保証はどこにもありません。家賃の想定が甘ければ、赤字に転落することだってあり得るのです。 家賃保証についても同様で、これも新築時の家賃を維持できるという意味ではありません。通常は数年単位で値下げされ、しかもその下げ幅をあらかじめ知るすべはないのです。業者は家賃の10〜15%ほどが取り分ですので大幅な値下げはしないと考えるかもしれませんが、実は業者の主な収入源は建物の建築費。その建築費も相場より高い場合が多いのです。さらに毎月の管理費や入居者募集に関する費用を引かれる場合もあるので、注意が必要です。 自己資金ゼロは、言い換えればオーナーが借金をして建てるという意味です。今ならマイナス金利政策をうまく利用して資金を調達して、と考えるかもしれません。確かに一時期に比べ借りやすくはなっていますが、むしろ不動産投資を目的とした個人向け融資は審査が厳しくなっているという話もあります。不動産経営を目的とした実質個人経営の法人についても同様で、金融機関ではこうした法人の審査を厳しくするよう指示が出されているという報道もあったほどです。 そして最大の懸念が、現在の賃貸住宅の市況です。特に都市部では国内に不動産市場と呼べるものが形成されて以来最悪の空室率となっており、しかも現在進行形で記録更新中です。今後も供給は続き、なおかつ人口は減り続けます。さらに、今から危惧されている東京オリンピック後の経済停滞が現実のものとなれば、一部でいわれているような家賃暴落もじゅうぶんあり得ます。このまま進んでいけばどうなるか。答えは明白でしょう。この状況下に借金をしてまでアパート・マンションを建てて、はたして老後の不安は減るでしょうか。 繰り返しますが、昨今、新築のアパート・マンション経営を勧める広告をよく目にします。要するに今は、不動産のプロが物件の取得を勧めてくる、つまりは売ろうとしている、そんな時期です。プロが素人に売ろうとしている時期です。プロの動きを見習えば、今は買うべき時ではなく売るべき時、そんな気がしてなりません。もちろん、建てるか建てないかはあなた次第、なのですが。
不動産ビジネスライター 久保純一 氏 不動産専門紙などで専属記者として、不動産ビジネスの最前線を長年にわたり取材。徹底した現場主義による、綿密な取材に基づいた記事には定評がある。独立後、不動産ビジネスにまつわる豊富な知識、経験を元に、現在は不動産経営者向け専門紙、物流不動産ビジネス誌、経済誌、専門サイトなど幅広いフィールドで活躍中。
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